大学時代にフリーで家庭教師のアルバイトをしていた。ほぼ毎日“出勤”し、1日に2人の生徒を受け持ちすることもあった。そのうち身体がもたなくなり、同じ学年の生徒を自宅に呼んで、数人ずつまとめて教えるようになった。これが学習塾を始めようと思ったキッカケだ。
駅前の小さなビルのひと部屋を借りて細々と始めたのだが、口コミとライバル業者がとくになかったことが幸いして、生徒は面白いくらい増加。経営規模が大きくなってくると、教科を英語、数学、国語に絞り込み、アルバイトの講師陣を増やして、自分は教壇を降りて管理業務に徹することにした。
教壇を降りた途端、頭の中は「売上げ倍増!」でいっぱいになった。講師に多少無理をしてもらい、夏期講習、冬期講習、春期講習などの季節事業を展開。新しい生徒の獲得に力を注いだ。
季節事業によるスポット売上げに味をしめた私は、いつしかこの年3回の講習から売上げを少しずつ除外するようになった。ときには冬期講習を「なかったこと」にして、その収入をまるごと除外。さらには、数人の生徒を退塾したかのように見せかけて、その分の売上げを除外。そのうち、架空の講師をつくりあげ、人件費の水増しにまで手を染めるようになった。浮いた金は個人的な旅行費用や家事費などに充てた。
しかし、上質紙のパンフレットやポスター、地元ケーブルテレビのコマーシャルなどで派手に宣伝している割には売上げが少ない点が税務署の目にとまり、税務調査を受けることに―。調査官は、時間割表と講師のメンバー表を照らし合わせ、授業を受け持っていない講師への報酬の支払いを指摘。さらに、教材に生徒数を照らし合わせて生徒数以上に教材を購入していることを指摘してきた。架空講師の介在による売上げ除外はあっという間にバレてしまった。さらに、夏、冬、春の季節講習の時期の売上げがさほど高くないことも指摘され、挙句の果てに、脱税したカネで欧州を周って撮ってきて、事務所内に飾ってあった写真を見て、そのカネの出所まで掘り下げてきた。
なるほど、税務調査官はプロだ。慎重に進めていたはずの脱税の数々が、あれよあれよといううちに白日の下にさらされてしまった。こんなことなら、昔のように少人数の生徒相手に細々と個人塾経営をしていればよかった。あの頃の私を慕ってついて来てくれた生徒たちの顔が懐かしく思い出される。生徒たちに面目が立たない。いまはただ、反省しきりの毎日だ。
2010年3月30日火曜日
Vol.30 『生徒利用して売上げ除外も』
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