2010年3月12日金曜日

Vol.12 『病院の儲けに手をつけてしまった』

実弟の病院の経理を手伝うようになって10年が経つが、バブル崩壊後、住民の医療環境改善のため市が音頭を取って近所に総合病院を建設、その影響で実弟の病院は徐々に患者数が減り、収益も急激に落ち込んだものだ。

病院経営はほかの産業よりも恵まれていると思われがち。だが、医療機器への投資額が大きく、医師や看護婦などの専門職に支払う人件費はとてつもなく高い。競合する病院の出現で廃業に追い込まれる病院も少なくない。

実弟の病院もその例外ではなかった。病院収入のほとんどが社会保険診療収入で占められていた。しかし、その保険診療を受ける患者が、総合病院にごっそりと取られたことから、一時は入院病棟を閉鎖するとともに、看護婦もすべてパートに切り替えて急場をしのいだ。

私は、金儲け主義を否定して、ひたすら弱者のために医師として治療に専念する弟をなんとか説得し、若者の心を引きつけて病院経営の活性化を図ることに力を注いだ。

まず、医療相談日と題し、思春期の子供たち向けに登校拒否や引きこもり、性病などについて医師の弟にカウンセリングをやらせた。さらに、新たにレーザー治療器をリースし、美容整形に着手、ニキビやシミ、ホクロなどの治療をはじめたところ、予想外の好評を得て患者層は一変、平日の午後5時を過ぎると、高校生だけでなく若いOLやサラリーマンで待合室はごった返すようになった。

医療相談収入とレーザー治療収入は見る見るうちに増え、バブル経済のころを再燃するかのような勢いで病院は大繁盛した。そのとき私がふと思ったのが、「病院経営を立て直したのは弟ではない、私だ。弟や看護婦に支払う人件費は仕方ないとしても、残ったお金は私のものにしたい」ということだった。

そこで、障害になったのが税金だ。病院の収入益が半分近くに減ってしまう税金をなんとか逃れたいと思い、たまたま医療相談とレーザー治療が保険診療対象外だったことから、保険診療でカルテのある患者を除外するなどして収益を隠ぺいし、脱税に走ってしまった。税務署には、医療相談日の患者数から除外した数がバレたわけだが、今では本当にみっともないことをしてしまったと後悔している。

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