2010年3月19日金曜日

Vol.19 『CM海外ロケと偽って―』

テレビCMの製作は海外ロケが多い。商品イメージを分かりやすく伝えるためだ。その海外ロケを、個人的な楽しみのために利用してしまったのが悲劇の始まりだ…。

大手広告代理店で次々にヒットCMの企画を立てていた私が、独立して小さな広告製作会社を構えて10年。開業当初はとにかく仕事が欲しかったので、CMだけでなく新聞広告やポスター、チラシ、パンフレットなど、幅広く仕事を受けていた。そのため、社員も20人と多く人件費が売上げを圧迫していたが、受注を見入りのいいCM企画制作およびその付随広告に絞り込み、社員も10人に削減すると利益率は面白いぐらいにアップした。

海外ロケの場合、どうしてもその仕事にかかりきりになってしまう。しかも、以前はロケの前には必ず担当者が現地に飛び、打ち合わせ兼下見をしなければならなかった。しかし、最近はインターネット、メールや電話などで打ち合わせを済ませ、下見も現地コーディネーターに安価で頼めるようになった。仕事の効率はグッと上がり、売上げも倍増。同時に当初の緊張感は薄れ、少しずつ気が緩みはじめた。

ある時、家族旅行でハワイに行った後、たまたまハワイロケを条件とするCMの仕事が入った。売上げが出過ぎて税金対策を考えていた私は、家族旅行の費用をロケの事前打ち合わせ費用と装い会社の経費に乗せてしまった。ほんの出来心だった。実際に出費があるため、「脱税」という意識はなかった。以後、海外ロケの仕事が入るたびに、会社のお金で「事前打ち合わせ」と称する家族旅行に行くようになった。慣れてくると社員の名前を使い、領収書類を偽造して架空の海外出張をデッチアゲるようになった。カラ出張。犯罪の域に達していることを感じながらも海外ロケの3回に1回は家族旅行、2回はカラ主張のペースが定着した。

同規模の同業他社と比較して必要経費が高すぎたのだろうか、ある日突然、税務署の調査官がやって来た。調査官は、帳票類を丹念にチェック。領収書類が完璧にそろっていることでどこか楽観視していたが、調査官にタイムカードを見せてくれと言われたとき、心臓が凍り付いた。そこまでは気が回らなかったのだ。事前打ち合わせのために海外に行っているハズの社員のタイムカードが押されている―。言い訳のしようがなかった。これが糸口となり、事前打ち合わせと称した家族旅行もすべて発覚。過去数年間に及ぶ経費水増しは白日の下にさらされ、重加算税をかけられてしまった。会社設立10年の実績はパー。もう二度とこんな馬鹿な真似はすまいと心に誓ったが後の祭りだ。

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