2010年3月26日金曜日

Vol.26 『ソフト開発費を水増し』

「カンベンしてください!もう3日も家に帰ってないんですよ」。社員の悲痛な叫びが胸に迫る。だが、納期はすぐそこ。ここで手綱を緩めるわけにはいかない。自分だって1週間は家に帰っていないどころか、まともな睡眠さえとっていない。極限状態で思ったのは、「身を削り家族を犠牲にしてまでも稼いだ金。みすみす取られるのは惜しい―」。

学生時代からコンピュータが好きだった。卒業後はコンピュータメーカーに入社。7年間しゃかりきに働き、お金を貯めた。会社の仲間や後輩、取引先の社員らとソフトウェア開発の会社を設立した。まず、「売れるもの」を作ることにした。安くて使い勝手のよいソフト。「二番煎じでもパクリでもいい」と社員たちの尻を叩いた。営業面にも力を注いだことで、ある程度の売上げが稼げるようになった。だが、安さだけでは大手に勝てない。今度は専門性を高める必要性が出てきた。

ソフト開発はやはり人材。そう思った私は他社からの「引抜き」に精を出した。もちろん引抜料は安くない。しかし、売れるソフトを出せばすぐにでも元は取れる。ヘッドハンティングにかかったお金以上に働いてもらえばいいわけだから・・・。

自分も社員も馬車馬のように働いた。冒頭のような状況はまさに日常茶飯事といえた。そして、業界ではそこそこのヒットとなる商品も作れるようになり、会社の収益も順調に伸びた。となると当然、納める税金も増えてくる。「何日も徹夜してまで稼いだ金を・・・」。一度惜しく感じてしまうともうどうしようもなかった。先に触れた技術者の引抜きに代表されるように、なにしろソフト開発にはお金がかかる。そこで、架空の開発費をどんどん計上した。

外注先には個人や零細企業が多く、「これならゴマカシが利く」と思い実際の数倍に当たる膨大な外注費を計上。人件費についても引抜料などの名目で水増しし、パートやアルバイトの学生に支払う賃金も帳簿上では実際より多く見せかけた。かなりの益金が消され、納税額は激減した。

だが、おいしいと思えたのはほんの一瞬。ソフト会社における外注費などは当局が最もマークする部分だった。調査に入られると、帳簿はボロボロの状態。「ここまでいい加減なのも珍しい」とまで言われる始末だ。

もともと信用力に乏しい小会社。「脱税」のレッテルを貼られては取引先も手を引かざるを得ない。アッという間に会社は倒産した。「身から出たサビ」の自分は仕方ないにしても、すべてを犠牲にして働いてくれた社員には申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

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