2010年3月22日月曜日

Vol.22 『成功した脱サラで気が大きく…』

「盛者必衰」という言葉がある。確か平家物語の一節だ。栄華を極めたら後は落ちるだけ―。なるほど人生の真理を言い当てているようだ。

5年前。中年を前にした私の人生計画は、都内にマイホームを持ち、子供たちに十分な教育機会を与え、年金に頼らず老後生活を送れるだけの投資をすることだった。脱サラして事業を始めたのも、サラリーマンのままではプランを実現するだけの収入が得られなかったからだ。

手掛けた事業は海外医薬品の個人輸入代行業。これといった人脈も資金もなかった私には、このようなゲリラ的な仕事からスタートするしかなかった。幸いサラリーマン時代に海外業者との折衡を担当していたので英語には自信があったし、パソコンもFAXも持っていたので、脱サラしてから一カ月も経たずに事業を開始できた。

通信、広告の費用で月次決算が赤字になったときは青くなったが、まもなくアッという間に黒字に転じた。アメリカで発売がはじまったED改善薬が人気となり一気に業績は上向きに。

その後は面白いように注文が相次いだ。あまりに注文が多くなってきたので、これまで家事に専念させてきた妻にも電話番と台帳記入をさせたほどだ。月次決算はすぐに黒字になり、手元にはばく大な利益が転がっていた。

インターネットで申し込みのあった顧客からの輸入代行手数料を、息子名義の口座に振込ませたのは翌月からだ。銀行からの借入れもなく、初期投資もなく、経費自体も広告宣伝費と通信費くらいしかない会社で、私の人生計画を実現するだけの資金を生み出すためには、利益の大半を納税するわけにはいかなかったのだ。こうして息子名義の普通口座には、ほどなくして数千万円を超える簿外資金が眠ることになった。息子に私立幼稚園の“お受験”を経験させ、都内マンションのカタログを取り寄せたのもこのころだ。

あと1年、簿外資金を貯めることができれば、私の人生計画を達成するための資金が集まるはずだった。その時点で、こんな綱渡りは止めるつもりだった。しかし、税務署は甘くなかった。

個人輸入代行業の不正手口はパターン化しているらしく、息子名義の預金口座に隠し持っていた手数料収入はあっけなく発覚。所得の仮装隠ぺいを指摘、重加算税を賦課された。修正申告をした後、手元に残ったのは借金とパソコンとFAXだけ。妻子は実家に行ってしまった。慎ましい栄華を夢見ていたが、不正で手に入れたものへの罰と代償はあまりに大きかった。

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