2010年3月25日木曜日

Vol.25 『衣替えシーズンの売上げでバレた』

父親からクリーニング店を受け継いだのは今からちょうど5年前。店舗が郊外の住宅地のど真ん中にあるということで、そこそこ安定した需要がある代わりに大儲けもしない、いわゆる「のんびりペース」の営業をしていた。

だが、3年前ごろから大型マンションが次々に建ち始め、これにともないライバル店も次々と参入。あっという間に同じ町内にクリーニング店が7件もひしめき合う状態になってしまった。「このままでは顧客がどんどん取られてしまう―」。初めて苦境に立たされた私は、生き残りをかけて大胆な差別化作戦に討って出た。

まず夜間営業。ライバル店のほとんどが夜7時までに店を閉めてしまうなか、ウチは夜9時まで営業することにした。これが一人暮らしのサラリーマンやOLにウケ、新たな客層の囲い込みに成功。さらに、革や特殊加工のクリーニングを格安で引き受けてくれる業者と外注契約したり、季節モノを始めとした期間限定サービスをマメに展開したり、早期引き取り客に割引券を配ったりと、きめ細かいサービスを展開。当初は「やりすぎじゃない?」とたしなめていた妻も、面白いように増え続ける売上げ数値を見て、そのうち何も言わなくなった。

売上げ除外を始めたのはこの頃だ。はじめは、外注に出した分の売上げを除外してみた。レザーコートが流行っていたため、これだけでも結構な金額になる。慣れてくると午前中の売上げをすべて除外したり、10件に1件はレジを打たないようにしたりと手口はかなり大胆になっていった。

しかし、付け焼刃の脱税行為は長くは続かなかった。どこで店の評判を聞きつけたのか、ある日突然税務署から「調査に入る」との連絡があった。帳簿・関係書類の体裁には自信があったので、はじめは強気だったが、月別の売上げをチェックしていた調査官が、「春と秋の衣替えの時期に売上げのピークが来ていない」と指摘してきた途端、心臓が凍り付いた。しどろもどろに対応していると、別の調査官が「外注支払台帳と受注台帳を見せてほしい」と言ってきた。「やばい!」。この外注に関する収入はすべて売上げから除外していたのだ。案の定、2、3カ月分をつき合わせただけで、数十件の特殊製品の売上げ除外が見破られた。

これが突破口となり、そのほかもろもろの売上げ除外も発覚。あっという間に私は「脱税犯」になってしまった。税務署は本当に侮れない。悪いことはできないものだ。これが、多額の追徴金と引き換えに学んだ現実だ。

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