2010年3月24日水曜日

Vol.24 『会社の運転資金がほしくて…』

東京の下町で細々と印刷会社を営む私は、景気の頃、いまのような苦しい経営を強いられることなどまったく予測していなかった。そのため、突然やってきた不況の波を甘く見て、つい軽はずみな行動をとってしまった。

印刷業は、紙と印刷機械さえあれば営業できるというものではない。印刷物のレイアウトを頼まれることもあれば、印刷物の発送まで請け負うこともある。いくつかの専門業者と業務提携していなければ成り立たない仕事なのだ。

そういった専門業者に仕事を依頼する、いわゆる外注費の占める割合は売上げの半分近くを占めることが多い。外注費を少しでも減らしたいが、なにせ専門業者への請負料金の設定はどこも同じで、競合させて安いほうに仕事を任せるというテクニックは通用しなかった。

そこで、不況を乗り越えるために経費削減の筆頭に上がったのが人件費。だが、わが社の場合、重要な作業は機械でこなせるようにしていたため、人は機械の補助的役割をしているにすぎない。そのため、正社員の数は少なくアルバイトの女性が従業員の大半を占めていた。

もちろん、そのアルバイトもギリギリまで減らして人件費の削減に努めたが、一人の仕事量が増えて残業を強いる結果を招いてしまった。残業が増えれば、その分残業代も増えていく。それでは人員削減をやった意味がなくなってしまった。

人件費以外に削減できるコストはないかと考えあぐねた結果、思い付いたのが納める税金を減らすことだった。仕事が減っているから、利益などはスズメの涙。当然、法人税など眼中になく“減税”のターゲットは源泉所得税と消費税に絞られた。消費税を減らす方法としては、売上げ時にかけた消費税から仕入れ時に支払った消費税を差し引く仕入額控除の計算を利用することにした。つまり、外注費を増やして支払う消費税を増やせばいいわけだ。

外注費を増やすのにちょうどよかったのが、アルバイトたちの残業代だ。残業部分の仕事をすべて外注したことにして、アルバイトを従来通り使っていながら帳簿の勘定科目だけをいじって外注工賃を増やした。これにより、年間の源泉所得税を約200万円浮かせることができ、消費税は年間約100万円が益税のような形で会社の運転資金に回せるようになった。

この仕組みを考え出したときには、我ながら感心したものだが、すぐに税務調査で手口が暴かれてしまった。消費税や源泉所得税は、末端の納税者の代わりに会社が税務署へ納めているだけ。それを不正に流用したことに、いまでは後悔ばかりしている。

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