2010年4月1日木曜日

Vol.31 『門前薬局で大儲けしたが・・・』

Vol.31 『門前薬局で大儲けしたが・・・』

「薬九層倍(くすりくそうばい)」とはよくいったものだ。

原価は1円未満のものが、包装されれば数百円になる。この手口で製薬メーカーが膨大な収益を上げているというのに、どうして我々だけがとがめられなければならないのか?。県で最も大きな病院の前で調剤薬局を開いていた頃、私は常々そう思っていた。だからこそ脱税犯としてお縄になるまで、いい加減な商売をしていたのだろう。

私が経営していた薬局は、いわゆる「門前薬局」というものだ。こういっては語弊があるかもしれないが、大病院の門前薬局経営ほどボロい商売はない。大病院の診療を受けた1日あたり10ダースもの患者が、処方箋を持って門前薬局にやってくるのだ。どれくらいもうかるかというと、私よりはるかに小規模な門前薬局の経営者でさえ、2人の息子を私大医学部に入れつつ毎年海外旅行に行く余裕があった、という事実から察してほしい。客への愛想も要らず、優れた経営手腕を必要としないにもかかわらず、これだけ儲かる門前薬局という商売だが経営上の勘所がないわけではない。大切なのは大病院との信頼関係だ。大病院との信頼関係とは、ありていに言えば「どのくらい病院側にリベートを渡すか」である。

リベートのねん出方法はいろいろある。よくやっていたのは、「振替え請求」という方法だ。そのやり方は簡単にいうと「病院が薬価1万円の薬を処方せんに書く。これを受けた薬局は、その薬と同じ成分である500円の後発品を患者に渡す」というものだ。これで薬価1万円の薬を使ったことにして保険請求すれば、9500円が手に入る。もっとも、振替え請求をはじめとした裏金のねん出や病院へのリベート贈与は、厚生労働省も禁止していることだ。だが、厚生労働省は警察ではない。彼らに告発される心配は何一つなかった。

こうして大病院との蜜月関係が永久に続くかと思われた頃、税務署がやってきた。調査も何もなく突然であった。大病院の院長の脱税容疑を調査していた税務署が、いろいろ調べているうちにリベートの存在を嗅ぎつけたのだろう。

私自身、違法な裏金をねん出していたわけで、“適正な税務申告”をしてきたわけではなかった。だが、裏金のほとんどはリベートとして病院に渡し、私の手許には何も残っていなかったので、まさか脱税でお縄になるとは思っていなかった。税務署員の優秀さと、本丸である病院がお縄になる可能性を考えていなかった己の不明が、脱税で告発されたことにつながったというわけだ。

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