知人の縁で、私がお寺に嫁いできたのは、27歳の時だった。独身のころは、将来自分でお店を持ちたいという夢があったが、半面、幼いころに両親を亡くしたこともあり、家族仲良く穏やかに暮らすことにも憧れていた。私の住む町は有名な寺院が多く、観光客も多い。そのなかで、住職である夫とともに、檀家や地元の人たちとの付き合いを大切に地道にやってきた。
転機は結婚から十数年後だった。近所のお寺のツツジがテレビで話題になり、多くの観光客が訪れるようになった。今思えばそのお寺への“ねたみ”があったのかもしれない。自分のなかに再び商売への想いが沸き上がってきた。私は、寺の庭園に桜やアジサイなどを大量に植え、入園料を取り、宿坊を設けて一泊5千円で精進料理を出すことにした。その甲斐もあり、数年後には四季折々の花が咲く“花のお寺”として人気を集め、想像以上のお客が訪れるようになった。
だが、せっかく稼いだお金を税金で取られるのが次第に惜しくなってきた。宗教法人には、旅館業などの収益事業から生じる所得に法人税が課税される。一般の会社に比べ税率は低いが、それでもなんとかごまかせないものかと考えた。
最初に考えたのが所得隠しだった。私は主人と共謀して家族名義の個人口座を作り、戒名代や塔婆料などお布施の一部を入金した。住職個人への講演料も、それを法人に入金せず、給与としないでそのまま口座へ。一度だけのつもりだったが、翌年は年間収入のうち2割もの額を口座に入れた。また、宿坊の売上伝票も改ざんした。宿泊客の売上分の一部を食事のみの日帰り客の代金として計上し、松竹梅と3種類ある精進料理のコースのなかで、一番高い「松」の売上の一部を「竹」に、「竹」の一部を一番安い「梅」に書き換えた。
しかし、こんな簡単な手口ではそう上手くいくはずがなかった。3年後国税当局が調査にやってきたのだ。源泉所得税の調査で、同規模の宗教法人に比べ、参拝者数の割にはお布施の額が明らかに少な過ぎたことが原因だ。宿坊の伝票操作にいたっては、ゴマの仕入数と在庫がポイントだった。精進料理のなかで、宿泊客にだけこの寺自慢のゴマ豆腐が付くが、当局はここに目をつけた。ゴマの仕入量からいくつのゴマ豆腐が作れ、さらにゴマの消費量から逆に宿泊客の売上げを把握する。そして、売上伝票の宿泊客の人数と比較したというわけだ。お布施などは非課税だが、個人的に貯蓄していたことから国税局から給与所得の源泉徴収もれと認定された。
「宗教」という名のもとにこんな拙速な脱税をしたことで、何百年続いたお寺の歴史に泥を塗ったばかりか、多くの檀家や信者を裏切ることになってしまった。
2010年3月6日土曜日
Vol.6 『宗教』という名のもとに…
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