2010年3月20日土曜日

Vol.20 『“ドンブリ勘定”で工事』

「○×建設、やっぱりつぶれちゃったね…」。街角での世間話を聞いた。経済不況は中小建設業を直撃している。数年前までは自分もその経営者だったが、倒産の憂き目に遭い、今は無職の身だ。「あの“脱税”が曲がり角だった…」とひとりつぶやく。

どこでもお金が余っていた。あるブティックホテルの新装工事を頼まれたとき、依頼主はこう言った。「いくらかかってもいい」。お金を大量に使うのには使う側にも理由があるのだろう。こっちもそれは心得ている。工事原価は抑えながら、見積りはまさにドンブリ勘定だ。「ここで1千万円、あそこで800万円…」。相場なんてあってないようなもの。細かな計算には興味もないのだろう。ろくに確かめもせず、依頼主はOKを出す。当時はウチだけではなかったのだろうが、こんな内容の仕事がひっきりなしに入った。とくに“実入り”が良かったのは、こうしたブティックホテルやパチンコ店など外装がにぎやかな建物。依頼主のオーナーも羽振りの良い人間がほとんど。どんな儲け方をしたのかは分からないが、お金も「ポン」と支払われた。

ほとんど言い値で決まる工事費。会社が儲からないはずはない。となると、税金も多くなる。「俺が稼いだ金だ。誰にもやるもんか」。耳元で悪魔がささやいた。

売上げに対して、あまりに少なすぎる工事原価。まず、ここを膨らませることにした。買っていないセメントや工具といった原材料を大量に「架空計上」。映画さながらに、証拠の品を隠す地下室なども造った。建設業だけにその辺はお手のものだ。

税務調査対策として、経理担当者には別に帳簿を作らせた。若い経理担当者はやや困った顔をしながらも、「自分が前にいた大手企業でも似たようなことはやっていました」と言いながら指示に従った。その言葉が私を楽にした。「大手でもやっていることなら、こんな小さなところまで税務署は調べに来ないだろう」。

しかし、“鬼”はやって来た。依頼主のひとりであったパチンコ店のオーナーが申告もれを指摘され、その調査上でウチの会社の名前が浮かび、「怪しいので調査を」ということになったようだ。小さいとはいえ、やはり建設業。当局からのマークは甘くなかったわけだ。

ごっそりと重加算税を取られ、脱税会社のレッテルを貼られた。会社の営業上、ダーティーなイメージは大きな痛手となった。そこに押し寄せたバブル崩壊の波を受け、会社はひとたまりもなくつぶれた。

工事したパチンコ店がいまや廃墟状態になっているのを見ると、自分を重ね合わせながら寂しくなる。

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