とにかくキャバクラには目がなかった。やり手の営業マンとして若い割には給料をもらっていたこともあり、週に4回、5回、足しげく通った。ほかに趣味はない。お金はかかったが損をしたとも思わなかった。だがそのうち、「商売」としての魅力を感じ始めていた。
「この程度のサービスでこんなに高い金を取っているのに客が入る。ビジネスとしての旨みはかなり大きい。自分が客の立場でこんな店があれば、というのを実現すれば必ず成功できる」。これまで自分が多くの店に出入りし、遊んでいたことが妙な自信につながった。
日につれ、その思いは強くなり、ついに会社を退職。退職金のほか、親戚、知り合いから資金をかき集め、小さいながらも店をオープンした。開店当初が肝心だった。これまで客として培った“人脈”を駆使してキレイどころを集めた。「あの店にはカワイイ子やノリのいい子が多い」という評判を得ることが、店を流行らせる絶対条件。もちろん、常勤では難しい女の子も一時的に来てもらった。とりあえずお金を積めばなんとかなるのがこの業界のやりやすい点でもある。
こうした苦労や“投資”が実って、開店早々客足は伸びた。基本的な料金を安めに設定したのも功を奏した。単価が低くても客の数が多ければ売上げは多くなる。となると、後は人件費を削って収益も高くするだけ。さすがに店のナンバー1やナンバー2を辞めさせるわけにはいかないので、数人の女の子は厚遇したが、そのほかで給料に不満がある子は全部辞めさせて安い給料で雇える新人を大量に入れた。
こんな形でも店はなんとなく儲かっていったが、当然納める税金も多くなった。ある年、納税額を見て「こんなに取られるのか」と声を上げた。「入ってくる金をもう少し減らしてしまおう」。経理担当者に対して自然に命じていた。
次の年からは実際の収入金額を少なくして申告を行うようになった。いわゆる「つまみ申告」だ。女の子への給料も実際に支払ったものより多く計上し、帳簿上には実在しない女の子が増え続けた。こうして手元に残った資金は、店の女の子名義で借りたマンションのクローゼットの中などに隠した。
ただでさえ、税務署からのチェックが厳しいこの業界。新参者で羽振りもよかった自分が見逃されるはずがなかった。ある日突然調査が入り、すべての不正経理が暴かれた。マンションの隠し財産も発見され、多額のペナルティーを科せられた。時を同じくして、看板の女の子たちも引き抜かれ、いまや店は閑古鳥が鳴いている。「おごれるものは久しからず」という言葉が身にしみるこのごろだ。
2010年3月29日月曜日
Vol.29 『キャバクラで“つまみ申告”』
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