私の家は、3代続く「すし屋」だった。私の父は、70歳を過ぎ、すし屋を私と弟に譲ると言ってくれた。
しかし、正直今のすし屋に時代遅れの古臭さを感じている我々兄弟にとって、3代続いているすし屋をそのままの形で受け継ぐ気にはならず、「未来のすし屋」を目指すため日夜兄弟で話し合っていた。当時はやっていた「デリバリー」という言葉で何かできないかなと思っていたのだ。すし屋では出前もあるから、配達は全然目新しいものではない。
満員の店内で客にすしを握りながら、いつものように出前に対応していたある日、配達が1時間以上遅れてしまって、客はカンカンに怒っていた。この客は、いつも出前を頼んでくれるお得意さんだ。平謝りして電話を切ったあと、「うちの常連客は出前のほうが多いのでは」とふと思った。調べてみると、常連客の7割以上が出前客だった。聞くところによると、店内はいつも混んでいてゆっくり食事ができないから、出前を注文するという。
これを聞き、「デリバリー専門のすし屋」を開こうと考えた。父は、ものすごく反対したが、その反対を押し切って店をリニューアルしたのだ。目論見通り、店は連日電話が鳴りっぱなしの大繁盛。すぐに、3号店、4号店と出店ができるほど出す店、出す店が儲かる。店を増やせば、当然「デリバリー」をする人手も必要となる。多くの学生アルバイトやフリーターなどを雇って店を切り盛りしていた。
店が儲かれば当然、税金もたくさん取られる。節税対策を考えていたら、弟が「それなら働いているみんなに時給を上げたり、臨時ボーナスでも出して、もっと気持ちよく働いてもらおう」と言った。しかし、私は弟の意見に耳を貸さずに、“脱税”という手段を選んだ。方法は、従業員の水増しである。不採用となった人の名前を借用して、従業員を水増ししていたのだ。
そんな簡単な手口では、税務署の調査で簡単に見破られることは分かっていながら、それを続けていた。案の定、その後の税務署の調査で脱税がバレてしまった。出勤簿を軽くチェックしただけで、架空人件費を指摘されてしまったのだ。
従業員への還元より脱税を選んだことが、従業員にも知れ渡り、店にとって大切な人々が次々と店を辞めてしまった。今では、1号店舗のみとなり、私が電話を受け、配達は弟がやっている。何事も、人を大切にする心がないとダメなことを実感し、反省している毎日だ。
2010年4月2日金曜日
Vol.32 『従業員に還元すればよかった』
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