2010年4月7日水曜日

Vol.37 『同人誌販売がバレて…』

銀行口座の残高は800万円前後。年収はここ4年で900万円は下らない。この不況の下、30歳を前にした人間としては「それなりの稼ぎじゃないか」、と自負している。しかし職業が職業だけに、クレジットカードのひとつも作れず、冷やかしに入った消費者金融の審査にすらはねられてしまう。そんな私はデビュー8年目の漫画家だ。

某誌新人賞に応募した原稿が編集者の目にとまり、しばらくは読み切りやカット、アシスタントの仕事が続いたが、3年目から雑誌連載のチャンスに恵まれた。大ヒットには恵まれていないが、連載がスタートしてからは、それなりにファンもつき、ネット上には応援サイトもできて、仕事も収入も徐々に安定してきた。「ペット可」のマンションにも入れたし、猫も飼えた。あのころはそれで満足だった。

連載中止の通告は突然だった。まるで、明後日の夜にカラオケに誘うときと同じような、ごく普通の感じで通告されたのだ。私にとっては地獄行きの宣告と同じだというのに。幸い、他誌から新連載の仕事が入ったため、すぐに収入に困るということはなかった。しかし、この日から、「いつ連載を切られるか」という恐怖に駆られるようになった。将来のために蓄財することを考え始めたのは、この頃からだ。税金の申告は、先輩の作家から紹介してもらった税理士にすべて任せていた。幸いというべきか不幸というべきか、その税理士は清廉潔白な人物だった。それだけに、過少申告の相談をするわけにはいかなかったし、私にも税金に関する知識は何もなかった。

では、どうすれば蓄財できるのか?答えは簡単だった。同人誌を売ればいいのだ!「本業」の傍ら、同人誌用の原稿を描きまくった。そして、即売会当日。連載時のペンネームで販売した同人誌の部数は1千部。1部千円。その日のうちに売り切った。ダンボール箱一杯の千円札を見て、「これが100万円かぁ」と感じ入ったことは今でも覚えている。この年から同人誌の作成、販売はルーティンワークになった。部数も2千部に増えた。面白いように貯まったお金は、すべて貯金した。不正と分かっていながら申告はしなかった。

税務署から職員が来たのは、ついこの間のことだ。いわく、「先生、随分多くの同人誌を刷っているんですね」。どうやら、新しく税務署に配属された調査官が私のファンだったらしい。彼らはすでに、同人誌を刷った印刷所、即売会の出席者にもコンタクトを取っていたようだ。3年間の「非合法」な売上と過少申告加算税で、それまでの蓄えはほとんどなくなってしまった。

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