2010年4月3日土曜日

Vol.33 『おいしい仕事に心が揺らいだ』

不動産市場の冷え込みは、消費税の税率が3%から5%に引き上げられた平成9年4月から一挙に加速度を増した。土地自体や住宅の取引に消費税は課税されないが、建物部分の取引については課税対象となっている。事業用の賃貸ビルの仲介業を主な仕事としている当社は、一挙に収益を落としていった。事務所やテナントの移転を考えていた人たちの多くが、消費税負担に躊躇して、考えを改めてしまう状況が相次いだためだ。

会社収益の落ち込みは激しく、とうとうオーナーである私の給与はストップしてしまった。そんなときに舞い込んできたのが、所有するビル2棟のテナント需要調査とテナントの入居者確保というF社からの仕事。

テナント需要調査の報酬として、100万8千円の請求書をF社に送付した。一方、テナントの入居者確保については、同時に103万3千円の請求をF社に行った。久々にまとまったお金が入ってくることから、「半年間、私は1円の給料も会社からもらっていない。ましてや今回の収益は飛び込みで入ってきた仕事だから、すべて私個人のフトコロに入れたい」というとんでもない考えが浮上。F社への請求書には、私個人の普通預金口座に振り込むよう送金先を指定した。

私がとったその行動は、まさに会社の収益を隠ぺいする行為だった。単純な脱税の手口は、翌年やってきた税務調査でいとも簡単に暴かれてしまった。調査官から売上の除外を指摘されたとき、「それは私がいままで会社に貸し付けてきた金銭を返済してもらっただけだ」と往生際の悪い態度に出てしまったのがまずかった。いま思えば、素直に非を認めていれば事は大きくならなかったはずだ。

確かに、会社の運転資金がショートしそうなとき、私個人の自宅や別荘などの不動産を担保に銀行から融資を受け、それを会社に貸し付けた形を取っていた。しかも、F社から振込まれた金額の大部分は、そうした個人的な借入れの返済に充てている。

そもそもF社に対して代金の振込先を会社の口座にしなかったことは、誰が見ても売上の除外になる。ましてやF社から支払われた事実を会社の帳簿にも記載していない。仕事を請負った契約書が存在するのに、代金が支払われていないとなると、税務署が疑ってかかるのは当たり前。正々堂々と会社の口座に入金してもらい、その上で給料として会社からお金を受取っていれば何の問題もなかったのに。結局、私が会社からくすねた金額は全額役員賞与となり、会社は法人税に加えて重加算税まで納めなければならなかった。

0 件のコメント: